AI・DX

AI – Ready(AI活用のためのデータ整備)のリアル

辰巳裕介

AI-Readyに再び注目が集まる

2025年12月23日、「人工知能基本計画」が閣議決定されました。「世界で最もAIを開発・活用しやすい国へ」を基本構想として、「AI利活用の加速度的推進」など4つの基本方針を掲げています。そのためには、「基盤となるデータの集積・利活用、特に組織を越えたデータの共有を促進する」ことが重要であると述べられています。これは、2019年に経団連が提唱した「AI-Ready化」とも通ずる考え方であり、AI活用のためにはデータ蓄積と整備が肝であることは論をまたないでしょう。

AI – Readyの実態

弊社は、上場メーカーのお客様を中心に、多くのAIエージェント開発に携わってきました。本稿では、その実務経験をもとに、 AI – Ready(AI活用のためのデータ整備)のリアルについてご紹介します。

  • 大手上場メーカーによる、複雑な製品図面を読み解く必要がある見積り業務を、AIエージェントで自動化する
  • 中堅上場メーカーによる、一部社員しか担えなかったコスト削減コンサルティングセールスを、AIエージェントにて汎用化する / など

AI活用のためのデータ蓄積・整備は、①経営情報のメタデータ化と、②固有の業務知識の体系化が二本柱です。主な担い手は、①については情シス・IT部門やデータサイエンティスト、②については事業部門やDX部門であることが多いです。

弊社としては①②の両方をご支援していますが、私自身の役割としては、②が多くを占めます。そこでは、特に製造業のクライアントについて、驚くほど共通しているパターンがあります。それは、下記2点です。

  • インプットは、複雑な図面や仕様書である
  • アウトプットの目的は、単純業務効率化よりも、創造的業務(広い意味でのコンサルティング機能)の代替である
  • 精度向上のネックは、「業務知識」が体系化されていないこと

AI – Readyを阻むもの

特に最後の点が困りものです。なぜなら、AIエージェントの最終的な精度を決定付けるものは、「業務知識」だからです。多くの企業は、AIエージェント開発に着手して動くものが出来てから、AIに参照させるべき「業務知識」が体系化されていない事実に直面しています。

なお、「業務知識」については日立製作所 AI CoEによる書籍『実践AIエージェントの教科書』 によくまとめられていますので、ぜひ参照して頂きたいところですが、ここでは簡単に「企業固有の言葉遣い、考え方、作業の仕方」と定義しておきます。

①経営情報のメタデータ化は、それこそ基幹システム全体に影響を及ぼしうるため非常に大掛かりであり、なかなか前に進めづらいことは多いに理解できます。一方で②業務知識の体系化は、現場毎/業務毎の判断で進めることができます。地道な「カイゼン」活動が得意な日本企業にとっては、得意分野のようにも思えます。また、日本を代表する経営学者であった故・野中郁次郎先生が1990年代に提唱した「暗黙知の形式知化」という言葉は、ビジネスパーソンの大半が耳にしたことがあるはずです。日本企業の経営幹部は長年に渡って「暗黙知の形式知化が重要だ」と唱えてきたのではなかったでしょうか?

それなのになぜ。。。超大企業も、売上数百億円規模の隆々たる中堅企業も、ほとんど例外なく、AIエージェント開発においては「業務知識」の不足に悩んでいます。それはやはり、日本ではハイコンテクストなコミュニケーションが成立しやすく、ジョブ型ではなく職能型の働き方が長く続いてきたことと無縁ではないでしょう。しかし、本稿では歴史的/文化的背景についてはこれ以上深入りしません。

ニワトリたまご問題

ごく一部の優秀な社員しか担えなかったコンサルティング(セールス)的な機能を、一般社員にも広く実装するために、AIエージェントを開発する狙いは、非常によくわかります。しかし、そのAIエージェントの精度を実用レベルに高めるためには、優秀な社員が担ってきたコンサルティングプロセスを体系化して、AIに参照させる必要があるのです。まさに「ニワトリたまご問題」が発生し、多くの日本企業が躓いています。しかし、こんなところで躓いている場合ではないのです、本当に。

これは、米国と中国が日本の数十倍の投資をして競っているAIモデル開発ではありません。企業単位での大規模システム投資やデータサイエンティスト人材が必要となる経営情報のメタデータ化でもありません。「業務知識」の体系化は、現場のコツコツとした頑張りでもなんとか対応できる領域です。そんな領域で敗北したら、日本企業はいったいAIの何を活用して、どこで勝つのでしょうか?「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」とは、一体なんのことなのか?まさに、負けられない戦いがそこにあります。

ニワトリたまご問題の克服

この「ニワトリたまご問題」を克服するためのポイントは、3点にまとめられます。

  1. Claude Codeに課金して、AIエージェントの動くモノをまず作ってみる

    • モノを作って精度を確かめてからでないと、「業務知識」の不足に気付かない。気付いていて且つ重要性を認識しているなら、とっくにやっているはずです
  2. 「業務知識」を細分化のうえ、スモールスタートで少しずつ体系化する

    • おすすめは、①企業固有の用語集を作る → ②業務に近しい国家資格などの体系立った知識を借用する(例:電子機器組立技能士、危険物取扱者など)→ ③既存のコンサルフレームワーク等も参考に、自社固有の暗黙知を体系的に形式知化する。の順に進めることです
  3. AIエージェントは、育てるものと心得る

    • 今月できなかったことが、来月できるようになることは、ザラにあります。生成AIモデルの精度向上や、「業務知識」の充実化によって、精度は徐々に上がります。すぐにはあきらめないことも重要です。

「負けられない戦いに、必ず勝つ!そのために、すこし誰かの力を借りたい!」そんな方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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